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大阪地方裁判所堺支部 昭和44年(ワ)568号 判決

原告

柴田森三郎

ほか一名

被告

和光紙器工業株式会社

ほか一名

主文

被告両名は、連帯して、原告柴田森三郎に対し金一、〇四一、三六七円および内金八八一、三六七円に対する昭和四五年一月二〇日から、内金一六〇、〇〇〇円に対する昭和四六年四月一四日から各完済まで年五分の割合による金銭を、原告柴田順子に対し金九〇〇、〇〇〇円および内金七四〇、〇〇〇円に対する昭和四五年一月二〇日から、内金一六〇、〇〇〇円に対する昭和四六年四月一四日から各完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

原告両名の被告両名に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告両名の連帯負担、その余の部分を被告両名の連帯負担とする。

この判決は、原告両名の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

(原告ら)

「被告両名は連帯して原告柴田森三郎に対し金二、九九一、一二八円および内金二、六〇一、一二八円に対する昭和四四年一月一六日から、内金三九〇、〇〇〇円に対する本判決言渡の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金銭を、原告柴田順子に対し金一、七〇〇、〇〇〇円および内金一、四八〇、〇〇〇円に対する昭和四四年一月一六日から、内金二二〇、〇〇〇円に対する本判決言渡の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金銭を支払え。訴訟費用は被告両名の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求める。

(被告ら)

「原告両名の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする。」との判決を求める。

第二、争いのない事実

一、被告淡口彦三郎は次の交通事故を惹起した。

(一)  発生時 昭和四四年一月一六日午前七時五〇分頃

(二)  発生地 堺市西永山園六―一九三先路上

(三)  事故車 普通貨物自動車(大阪四み五三三号)

(四)  運転者 被告淡口彦三郎

(五)  被害者 被告柴田森三郎は普通貨物自動車(泉四ぬ三四五一)を運転し、被告柴田順子はこれに同乗。

(六)  事故の態様 追突。原告柴田森三郎は西から東に向い、本件事故現場の信号機のある交叉点で信号表示に従つて停車中、被告淡口彦三郎がこれに追突したもので、かかる場合、適当な車間距離を保つて自車をその後方に停車せしめ、もつて追突事故を末然に防止すべき注意義務があるのに拘らず、これを怠つたもの。

二、帰責関係

本件事故車は被告会社の所有で、その被用者である被告淡口彦三郎はその業務の遂行中本件事故を惹起した。

三、損益相殺

原告柴田森三郎は被告らよりその財産的損害の内金として二二〇、〇〇〇円の支払を受けた。

第三、争点

一、原告の主張

(一)  原告らの受傷

原告らは本件事故により頸部挫傷を受け、そのため原告柴田森三郎は頭部・頸部痛、右上肢のしびれ、ひきつり著明、脳機能の低下を来たし、原告柴田順子は頭部・頸部痛、左手のしびれが著明である。

(二)  原告らの損害 合計五、五八九、五六九円

(1) 原告柴田森三郎分 三、八八九、五六九円

(内訳)

(イ) 入院付添費一四五、〇〇〇円。但し、原告両名分、一日一人当り一、〇〇〇円の割合。1,000円×145=145,000円

(ロ) 入院中の諸雑費二九、〇〇〇円。但し、原告両名分、一日一人当り一〇〇円の割合。

100円×2×145=29,000円

(ハ) 通院交通費三〇、四八〇円。但し、原告両名分、昭和四四年六月一三日から昭和四五年六月末までの通院交通費、大体二日に一回の通院、バス代往復八〇円。

80円×(381÷2)×2=30,480円

(ニ) 診断書作成費一、〇〇〇円(但し、原告両名分)

(ホ) 休業損害八〇八、七八八円。但し、同原告は二〇年来ガスメーター部品製造業を営み、昭和四三年度所得は六二二、一四五円(青色申告)であつた。昭和四四年度は年初から別途長期新契約にもとづく受注のもとに設備を増強し、前年に比し少くとも三〇%の増収を確保できることになつていたが、本件事故により同年末まで休業を余儀なくされた。

(ヘ) 逸失利益六四三、三〇一円。但し、同原告は本件事故による受傷のため脳機能障害を起し、少くとも今後四年間は前記就業に必要な限度の健康状態への回復は望めないので、当初二年間は三〇%、その後の二年間は一五%の労働能力喪失は確実である。(808,788円×2×0.3×0.9090)+(808,788円×2×0.15×0.8333)=643,301円

(ト) 慰藉料一、八四二、〇〇〇円

(1) 入院中のもの。一ケ月当り一二万円、一日当り四、〇〇〇円の割合。

4,000円×145=580,000円

(2) 通院中のもの。一ケ月当り六万円、一日当り二、〇〇〇円の割合。

2,000円×381=762,000円

(3) 後遺症によるもの。 500,000円

(チ) 弁護士費用三九〇、〇〇〇円

(2) 原告柴田順子分一、七〇〇、〇〇〇円

(内訳)

(イ) 慰藉料一、四八〇、〇〇〇円

(1) 入院中のもの。一ケ月当り一二万円、一日当り四、〇〇〇円の割合

4,000円×145=580,000円

(2) 通院中のもの。一ケ月当り六万円、一日当り二、〇〇〇円の割合

2,000円×200=400,000円

(3) 後遺症によるもの。 500,000円

(4) 弁護士費用二二〇、〇〇〇円

(3) 原告らの請求額

(イ) 原告柴田森三郎分。前記三、八八九、五六九円より二二〇、〇〇〇円を控除した三、六六九、五六九円の内金二、九九一、一二八円およびその内金二、六〇一、一二八円に対する昭和四四年一月一六日から、同年九〇、〇〇〇円に対する昭和四六年三月三一日から各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金。

(ロ) 原告柴田順子分。前記一、七〇〇、〇〇〇円および内金一、四八〇、〇〇〇円に対する昭和四四年一月一六日から、内金二二〇、〇〇〇円に対する昭和四六年三月三一日から各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金。

二、被告らの主張

(一)  原告らの受傷の存否およびその内容は不知

(二)  原告らの損害は否認。

第四、証拠関係〔略〕

理由

第一、争点に対する判断

一、原告らの受傷

〔証拠略〕によれば、原告両名は本件事故によりいずれも頸部捻挫の傷害を受け、原告両名とも昭和四四年一月一九日から同年六月一二日まで一四五日間入院、引き続いて、原告柴田森三郎は昭和四五年六月三〇日まで、原告柴田順子は昭和四五年七月七日まで、いずれも通院治療を余儀なくされたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

二、原告らの損害

1  原告柴田森三郎分

(イ) 入院付添費

〔証拠略〕によれば、原告らの入院中原告柴田森三郎の妻が原告らの付添看護に当つたことが認められるが、〔証拠略〕によれば、原告らの受傷程度は器質的には重篤でないこと、入院期間中の症状は相当心因的な要素が作用していると認められること、病状自体からみた付添看護の必要度等を考慮すれば、被告らの負担すべき入院付添費は、入院日数の二分の一たる七二日分に限るのが相当である。よつて、原告両名分一日一、〇〇〇円の割合により、

1,000円×72=72,000円

となる。

(ロ) 入院中の諸雑費

右同様の理由により七二日分に限り被告らをして負担させるのが相当である。よつて、原告両名分、一日一人当り一〇〇円の割合により、

100円×2×72=14,400円

となる。

(ハ) 通院交通費

前同趣旨の理由により、原告両名とも通院期間の二分の一たる一九〇日分に限り被告らに負担させるのが相当である。よつて、少くとも二日に一回の通院、バス代往復八〇円の割合により、

80円×(190÷2)×2=15,200円

となる。

(ニ) 診断書作成費

弁論の全趣旨により、原告両名分一、〇〇〇円を認容する。

(ホ) 休業損害

〔証拠略〕によれば、原告柴田森三郎は、本件事故当時、妻と使用人一名で、ガスメーター部品の加工、組立業を家内工業的に営み、同原告は型の据付け、製品の検査、同原告の妻等は部品加工、組立を担当し、同原告の昭和四三年度分の所得申告額は六二二、一四五円であつたこと、同原告は前記のとおり昭和四四年一月一九日から同年六月三〇日まで入院、引き続き昭和四五年六月三〇日まで通院治療を受けたにも拘らず、右業務は継続され、昭和四四年度分の申告額は六四〇、〇〇〇円程度であつたが、これは主として同原告の妻らが同原告の労力をも代替したものであること、以上の事実が認められる。そうすると、本件の場合、同原告の代替労力の費用は、同原告の前記業務における寄与率を勘案した額とみるのが相当であるところ、前記のとおり右業務は家内工業的ではあるが、或る程度組織化されていること、その中における同原告の分担業務、入院期間等からみて、その寄与率は三〇パーセントと認めるのが相当である。従つて、同原告の休業損害は、入院期間に限つて右寄与率により認容すべきであるが、その余の通院期間については、前記のごとき事情および原告の症状等を考慮すれば、これを被告らに負担させるのは相当でない。

よつて、

622,145円×5/12×0.3=77,767円

となる。

(ヘ) 逸失利益

同原告は前記のとおり本件事故により受傷し、現在においても頭痛、右手の痺れを訴えているが、前記のとおり右症状は多分に心因的要素が作用していると認められるので、今後同原告主張のごとき労働能力喪失を認め、これを被告らに負担させるのは相当でない。

(ト) 慰藉料

(1) 入院中のもの。本件の場合、入院期間が長期に亘つているが、前同様の趣旨により、一ケ月当り六〇、〇〇〇円、一日当り二、〇〇〇円と認めるのが相当である。

よつて、

2,000円×145=290,000円

となる。

(2) 通院中のもの。本件の場合、前同様の趣旨により、一ケ月当り三〇、〇〇〇円、一日当り一、〇〇〇円と認めるのが相当である。

よつて

1,000円×381=381,000円

となる。

(3) 後遺症によるもの。

同原告の後遺症として訴えるところは、前記のとおりであるが、これは多分に心因的要素が作用していると認められること等諸般の事情を考慮し、同原告の受くべき慰藉料の額は二五〇、〇〇〇円が相当である。

(チ) 弁護士費用

当審の認容額を基準として、一六〇、〇〇〇円を認容する。

2  原告柴田順子分

(イ) 慰藉料

(1) 入院中のもの。本件の場合、前記原告柴田森三郎と同趣旨の理由により一ケ月当り六〇、〇〇〇円、一日当り二、〇〇〇円と認めるのが相当である。

よつて

2,000円×145=290,000円

となる。

(2) 通院中のもの。本件の場合、前同様の趣旨により、一ケ月当り三〇、〇〇〇円、一日当り一、〇〇〇円の割合と認めるのが相当である。

よつて、

1,000円×200=200,000円

となる。

(3) 後遺症によるもの。本件の場合、前同様の趣旨により、二五〇、〇〇〇円が相当である。

(ロ) 弁護士費用。当審の認容額を基準として、一六〇、〇〇〇円を認容する。

三、原告らの受くべき損害額

(1)  原告柴田森三郎分

入院付添費七二、〇〇〇円、入院中の諸雑費一四、四〇〇円、通院交通費一五、二〇〇円、診断書作成費一、〇〇〇円、休業損害七七、七六七円、慰藉料九二一、〇〇〇円、弁護士費用一六〇、〇〇〇円、以上合計一、二六一、三六七円より二二〇、〇〇〇円を控除した一、〇四一、三六七円。

(2)  原告柴田順子分

慰藉料七四〇、〇〇〇円、弁護士費用一六〇、〇〇〇円、以上合計九〇〇、〇〇〇円

第二、結論

よつて被告らは連帯して原告柴田森三郎に対しては金一、〇四一、三六七円および内金八八一、三六七円に対する本訴状送達の翌日である昭和四五年一月二〇日から、内金一六〇、〇〇〇円に対する本判決言渡の翌日である昭和四六年四月一四日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることになり、原告柴田順子に対しては金九〇〇、〇〇〇円および内金七四〇、〇〇〇円に対する昭和四五年一月二〇日から、内金一六〇、〇〇〇円に対する昭和四六年四月一四日から各完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることになるから、原告らの被告らに対する本訴請求は右の範囲において理由があるから認容し、その余の部分については理由がないので棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新月寛)

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